nokosu社長インタビュー

「弁護士を辞めると告げたら、仲間から『羨ましい』と言われた」──元法律家・永田健一が介護の世界で守り続けるもの

「弁護士を辞めると告げたら、仲間から『羨ましい』と言われた」──元法律家・永田健一が介護の世界で守り続けるもの

司法試験に何年もかけて合格し、刑事事件や外国人事件を扱う弁護士として6年間働いた永田健一さんは、三十代前半でその仕事を手放した。妻の両親が経営する介護会社を継ぐために。親には猛反対され、毎月仕送りを続けることで了解を得た。ところが同期の弁護士仲間の反応は違った。「羨ましい」という言葉が返ってきた。あれから13年余り。社会福祉士、ケアマネージャー、介護福祉士、認知症介護指導者——これほどの資格を弁護士経験後に取得した経営者は、おそらく日本でただひとりだ。

永田健一さん

「弁護士を辞めると言ったら、仲間から『羨ましい』と言われた」

「みんな、ちょっとつらそうだろうなって、わかるんですよね」と永田さんは静かに言う。

刑事事件、無罪を争う0.1%の事件、大きな金額が動く民事——何十件も積み重なると、精神的にも身体的にも限界が来る。「このまま一生続けていくのが、正直不安だった」と振り返る。

弁護士を辞めると仲間に告げたとき、驚かれるだろうと思っていた。ところが返ってきたのは「羨ましい」という言葉だった。「辞めるんだ、いいなあ」とも言われた。

弁護士という仕事が、内側からどれほど消耗するものか。同じ場所にいた人間には、すぐにわかることだった。

「妻の両親の会社に、後継者がいなかった」

弁護士4、5年目のころ、永田さんは行き詰まりを感じていた。そのとき、たまたま妻の両親が介護会社を経営していることを知った。しかも後継者がいない、という話だった。

「もし自分が弁護士を辞めて継いだら、その会社は未来へ続いていくのかなって思って」

決断した。

親には相当怒られた。「司法試験に何年もかかって、やっとのことで受かったのに」。青森の地元では、息子が弁護士になったと伝わっていた。毎月仕送りを続けることを条件に、なんとか話をまとめた。

介護の世界に入ってから、資格を次々と取った。社会福祉士、ケアマネージャー、介護福祉士、そして最近では認知症介護指導者の資格も。「弁護士をやりながら社会福祉士を取る人はいますけど、完全に辞めて介護1本でいく人は基本いないと思います。ここまで資格を取っているのは日本で僕だけだと思うので」

自慢ではなく、事実として言っている。

介護業界では、遺言や相続、後見人などの法律問題もあり、相談を受けて専門家につなぐことも多い。自分しかできない仕事をすることがやりがいとなっている。弁護士を辞めても、こうやって違うやりがいを見つけられるんだなって。振り返って思いますね。

「おばあちゃんのお腹に顔をうずめて泣いた」

なぜ、介護の世界で働き続けられるのか。

永田さんは青森市で18歳まで育った。おじいさんは早くに亡くなり、おばあちゃんと長い時間を過ごした。母親に叱られると、おばあちゃんのところへ逃げた。

「おばあちゃんのお腹に顔をうずめて泣いたりするんですけど、必ず僕の味方をしてくれていて。一緒に布団を並べて寝たりもしてましたし、おばあちゃん子だったなと思います」

その記憶が、今の仕事のどこかにある気がすると永田さんは言う。「守ってもらったから、守ってあげられる」とインタビュアーが言うと、「そういうところはあると思います」と静かに答えた。

インタビュー中の永田健一さん

「戦いになった時点で負け。それが弁護士時代に学んだことの核心です」

「弁護士っぽくないってよく言われるんです」と永田さんは笑う。

相手を追い詰めない。逃げ道を残す。辞める職員には、後でどこかですれ違っても「久しぶり、最近どうしてる?」と話せる関係で終わらせる。

「できるだけ戦いを回避して、最小限の被害に抑えることがやっぱり大事。戦いになっちゃったら、お互いエネルギーも時間もお金も消費する。お互いに傷つくんです」

弁護士として働くうちに、自分が本来、争いを好む人間ではないと気づいた。「弁護士の仕事は、戦わないとお金が入らない。でも自分はたぶん、戦いが好きじゃないんだって気づいたんです」

介護の仕事は、その矛盾がない。困っている人を助ける。その方向だけを向いていられる。

最後の瞬間に、誰かがそばにいる

永田さんが大切にしていることのひとつに、看取りがある。

「70年、80年、90年と生きてきた人が、最後の最後に孤独なまま亡くなってほしくない」

職員が初めて看取りに立ち会うとき、ショックを受けることがある。その際に永田さんはこう伝える。「すごいことをしてるんだよ。その人の最期に立ち会うというのは、すごく光栄なことでもあるんだよって」

その言葉を聞いた職員が、次の看取りのとき「自分が見送ってあげたい」と言うようになった例もある。看取りに何度も立ち会った職員ほど、長く働き続けてくれると永田さんは感じている。

「足立区で、足りないところに力を入れたい」

「どんどん拡大する気はない」と永田さんははっきり言う。

代わりに今、力を入れているのが障害者支援だ。介護の分野は長年かけて制度が整ってきたが、障害者支援はまだ手薄な部分が多い。介護と障害の両方に精通した人間が少ない。「足立区もそこを足りない、足りないってよく言っているので、うちが少しでも力になれたらという思いがありますね」

足立区の花畑・南花畑エリアを中心に、訪問介護、グループホーム、小規模多機能型居宅介護、訪問看護——多様な形で地域に根ざしてきた。

「地元の人や地元を大事に。それはずっと変えずにやっていきたいと思っています」

弁護士として守ろうとした人たちと、介護経営者として守っている人たちは、同じかもしれない。おばあちゃんから守ってもらった記憶を携えて、永田さんは今日も足立区にいる。

プロフィール

永田健一(ながた けんいち)
介護会社代表取締役社長(2代目)。弁護士として6年間、刑事事件・外国人事件を中心に活動した後、妻の両親が経営する介護会社を継ぐために転身。介護の世界に入ってから社会福祉士・介護福祉士・ケアマネージャー・認知症介護指導者の資格を取得。弁護士経験を持ちながらこれだけの介護資格を持つ経営者は、おそらく日本唯一。東京都足立区を拠点に、高齢者・障害者へのサービスを幅広く提供している。また、認知症介護指導者として他の事業所の管理者を対象にした研修受け入れも行っている。

株式会社ケアサービスとも
〒121-0061 東京都足立区花畑4-23-7 第3けあともビル1階
TEL:03-5851-8177
https://www.caretomo.net/

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